夢を見ていた。
 夢の中で俺は赤いワンピースを着た女の子の後ろを歩いていた。周りを見ることはなく俺はただ女の子の後姿だけを見ている。
 歳はいくつくらいだろうか。まだ小学生にもなっていないかもしれない。黒い髪は長く、女の子の歩みに合わせてゆれている。
 そんな女の子からなぜか目が離せない。もう少し見ていたい。そう思っていたとき突然女の子が振り返った。初めて顔を見たが、端整な顔立ちをしている。だが目だけが浮いている印象を受ける。日本人のような容貌なのに目だけは鏡のようなのだ。
 その不思議な鏡のような目で女の子は俺のことを見つめていた。

 人間は『理性的な生き物』だ。
 そう言った人がいるらしい。だが俺はそれには賛成できない。
 人間は誰でも自分の欲望を満たすために生きている。金が欲しい食べ物が欲しい女が欲しいと言ってそれを得ようとする。そんなことしか考えてない。聖人だと言われる人だって『人に頼られる自分』という像を欲していただけ。地位や名誉が欲しかっただけ。結局どんな人間であろうと人間である限り欲望からは逃れられない。知能があるだけタチの悪い生き物だ。動物と称するのさえ間違っている。
 人間は欲の塊だ。
 だけど「    」

***


 朝起きて顔を洗っていたときのことだった。
 顔についた泡を流し終え、顔を上げると鏡に誰かが映っていたのだ。赤い服を着た誰かが。
 振り返るとそこにいたのはやっぱり夢の女の子だった。鏡のような目で俺を見つめている。
 その瞬間、ぐにゃり、と何かが歪んだような感覚に襲われる。
「来て」
 そう言って外に出ようとする女の子を追いかけることしか俺には出来なかった。

 俺は夢の中と同じように女の子の後ろを歩いていた。やはり黒い髪は長く、歩みに合わせてゆれている。
 どこに向かっているのだろうか。そう思いながらついていくと、駅前にたどり着いた。そして俺はその景色に息を飲む。
 なんだあれは……。
 駅前にあふれる赤黒い物体。それらが粘液のようなものを撒き散らしながら駅に向かって動いている。
 理解が追いついていない。なんだあれは。ここはどこだ。なにがおきているんだ。
「お、おい。これはどういうことだ。頼むから説明してくれ……」
 振り返る女の子。そして俺を見つめる鏡のような目。
 その目に映っていたのは――
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